K-POPを躍進させた10のマーケティング戦略

あなたが好きか嫌いかに関わらず、K-POPは世界のトレンドを支配しつつあります。 今日のK-POPは、一音楽ジャンルという枠組みを越え、欧米におけるアジア人のステレオタイプさえ変化させるほど大きな影響力を獲得しました。

昨年、人気グループBTSのMV『Dynamite』は公開後24時間で1億回以上再生され「24時間で最も再生されたYouTube MV」に認定されました(その後この記録は、MV『Butter』によって彼ら自身の手によって更新されています)。また、Justin Bieberを越え「世界で最も登録者の多いYouTubeチャンネルを持つアーティスト」となったBLACKPINKも、InstagramやYouTubeにおいて我々の想像を絶する影響力を誇っています。

エンターテインメントとそのマーケティングに携わる人間として、そして、一人のK-POPファンとして、これほど研究対象として最適なものはそうないでしょう。そこで今回は、K-POPアーティストやその事務所が実行している優れたマーケティング戦略を整理してみることにしました。

1.ファンを焦らすティザー

新しいアルバムをリリースする前、K-POPアーティストは大々的なプロモーション期間を設けます。ここでは主に、リード楽曲の一部やMVの一部を断片的に公開しますが、これにはファンのボルテージを高めるという目的があります。この”不完全な”コンテンツはファンの間では「ティザー」と呼ばれ親しまれています。

こうしたマーケティングはアメリカを含め、世界中の他のどの国でも未だかつて行われたことはありませんでした。少なくとも、これほど長期間に渡って執拗にこの戦略に拘ったアーティストはいませんでした。素晴らしいティザーの例として、2021年3月にBLACKPINKのRoséがソロデビュー曲『On The Ground』を発表する際に行ったキャンペーンがあります。

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彼女の所属事務所であるYGエンターテインメントは、フルのMVを公開するに先立って何度もその断片的な映像や音声を公開することでファンの探求心をくすぐり、見事に注意を惹き続けました。同様の作戦は、InstagramなどYouTube以外のSNSでも同時に展開されました。

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このように一般的なK-POPアーティストは、大量に新しいMVを公開しようとせず、あえて各MVの間に何ヶ月かの空白期間を設けます。これによってファンは次の作品を切望し、様々な憶測を立て、言及し、コミュニティの盛り上がりに貢献します。

同様の試みはデビュー時にも見られます。多くのK-POPアーティストはデビューに際して、事務所から突如デビューの日程やアルバムがリリースされるということは少なく、告知を何ヵ月も前に行った後(数年にわたるケースもあります)満を持してデビューします。ただし、ただファンに大人しく待ってもらうということは少なく、多くの場合少しずつメンバーの名前や容姿、グループのコンセプトやデビュー曲の断片を提供し、とことん焦らします。有名なのものはSMエンターテインメントによるEXOのデビューに際して行われた”100日プロモーション”です。

2011年12月22日0時、SMエンターテインメントの公式サイトに突如、新グループの誕生を示唆するロゴとタイマーつきのポップアップウィンドウが登場しました。その24時間後の12月23日0時、タイマーのカウントダウンが終了。同時に一人目のメンバー、カイ(韓: 카이、英: Kai、1994年1月14日 -)の予告映像が公開されました。

これを皮切りに、グループは100日間にも及ぶ大規模なオンラインプロモーションを開始したのです。この期間ではメンバーの紹介やグループのコンセプトを断片的に公開し続け、ファンの期待を膨らませ、また焦らし続けました。結果として彼らは、1stフルアルバムが韓国音楽界で12年ぶりにミリオンセラーを記録するなど、その後突出した記録を打ち立てていくことになります。

2.SNSにおける視認性の重視

SNSは他のメディアと比較して、特にビジュアルが重視される傾向にあります。これは恐らく、インターネットの普及で膨大なコンテンツが生産されるようになり、どれを優先的に摂取するか瞬時に判断しなければならなくなった結果、よりビジュアルの優れたものほど印象的で目に留まりやすかったことに起因します(実際人間の脳は、テキストよりも画像や動画をより早く処理することで知られています)。PinterestやInstagram、Snapchatなど、ビジュアルコンテンツにフォーカスしたSNSがほぼ同時期に登場し、爆発的に人気を得たのも偶然ではないでしょう。

K-POPアーティストはこの原則をよく理解し、非常に洗練された形でコンテンツを制作しています。例えば、SMエンターテインメントに所属するEXOのInstagramは、写真集のような優れたビジュアルで構成されています。

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また、こうした視覚的なこだわりはSNS上に投稿されるコンテンツだけでなく、当然MVやポスター、アルバムジャケットにも反映されています。多くの場合、K-POPアーティストは作品をつくっていく際に服装や舞台装置は元より、作品内で使われるボールペンの色、足元に転がる石の色や形、歯茎や舌の色にまでこだわっています。以下のMVをご覧いただくと、K-POPがいかに「色」を重視しているか自ずと理解出来るはずです。

3.既存のコンテンツの最大化

K-POPのアーティストは既存のコンテンツを最大限に活用する傾向があります。ほとんど全ての欧米のアーティストにとって、アルバムをリリースすることはプロジェクトの完了と同義です。その後の活動となると、せいぜい制作の舞台裏動画を公開する程度でしょう。一方K-POPアーティストは、とにかくそのアルバムに関連するコンテンツを最大限に活用します。 

①パフォーマンスビデオ

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メインのMVとは別に、K-POPアーティストはパフォーマンスビデオをリリースすることがよくあります。通常のビデオには、ダンスシーン以外の様々なシーンが含まれますが、パフォーマンスビデオは純粋にダンスにのみ焦点を当てて作られています。彼らはこの二つを上手くずらして公開することで、話題を提供し続け、ファンの飽きを緩和しています。

②ダンス練習動画

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ダンス練習動画はパフォーマンスビデオに非常によく似ていますが、通常はより単純につくられています。多くは事務所のスタジオで撮影され、可能な限り最小限の編集で公開されています。こうした動画は、ファンによるカバーダンス活動を促し、大量の二次創作の土壌をつくっています。

また、ニューヨークに住むあるK-POPファンは「編集されていないリアルな側面を見ることで、彼らがどれほど一生懸命努力しているかが伝わってくる。擦れたスニーカーや伸びた練習着、曇った表情、そうした一つひとつのリアリティに魅了されているファンも多い」と話します。このように、K-POPアーティストは自身の泥臭い姿を積極的に見せることで、完璧であることを否定し、親しみを感じさせることでファンになってもらうことに成功しています。

③チッケム

チッケムとは韓国語で”직캠”、一般的に「推しカメラ」と呼ばれ、主にライブ映像で特定のメンバーだけに焦点を当てて撮影した映像のことを指します。これは特に、お気に入りのメンバーに対するエンゲージメントを高めることに役立っています。このチッケムは、K-POPアーティスト自身が公式に公開することはあまりありませんが、K-POP全体のカルチャーを示す、またコミュニティの盛り上がりに貢献する重要な一要素となっています。そのため、中には自身のチッケムについて言及したり、SNSでリポストすることで撮影者を活動を暗にサポートするK-POPアーティストもいます。

4.ミニアルバムの活用

効果的なK-POPのマーケティングの次のリストは、いわゆるミニアルバムのリリースです。これはK-POPを普段聴かない人にとってはあまり馴染みのないものかもしれません。ミニアルバムはK-POPアーティストによってリリースされる最も一般的なアルバムのタイプであり、通常は5〜7曲で構成されます。また、通常フォトカード、ポスター、フォトブックなどが付属しています。

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K-POPアーティストがフルアルバムではなくミニアルバムをリリースする理由はいくつかあります。

・フルアルバムと比較して安価かつ短期間で完成出来る。
・複数のミニアルバムをリリースすることでより多くのお金を稼げる。
・フルアルバムをリリースする前に各楽曲に対してどのような反響があるかテスト出来る。

欧米や日本のアーティストにはあまり見られない文化ですが、世間の注目を集めるだけでなく、ファンにより多くのコンテンツを提供し、より素早く、より大量にお金を稼ぐための素晴らしい方法です(勿論これは悪いことではありません。全てのアーティストとその事務所は生存するためにお金を稼ぐ必要があります)。

5.国際的なオーディエンスリーチ志向

恐らくK-POPアーティストとその事務所は、世界で最も海外のオーディエンスにリーチするためのマーケティングを心得ています。

①歌に英語を組み込む
多くのK-POPの楽曲はタイトルを英語にしたり、曲中に英語の詞を組み込んでいます。これには主にアメリカのポップスを意識した制作上韓国語では上手く詞が当てはめられなかった部分を補完出来る役割、また、幅広いファン層にアピールする役割があります。その結果、韓国語を普段話さない人でも曲を検索しやすく、また歌いやすく(つまり二次創作を行いやすく)なります。

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②別の言語で曲をリリースする
より幅広いファン層にリーチするために、K-POPアーティストは頻繁に韓国語以外の言語で楽曲をリリースします。特に日本は、その市場規模と地理的性質上(例えば、福岡の福岡国際空港からソウルの仁川国際空港までは飛行機を使って約1時間半ほどで到着します)最も気に掛けられている国の一つであり、多くのK-POPアーティストは韓国語の楽曲と並行して、日本語の楽曲をリリースしています。

あるいは完全によりグローバルな市場を意識して完全に英語で歌うことを選ぶK-POPアーティストもいます。最近ではRoséのソロデビュー曲(彼女は今年、『On the Ground』と『Gone』の2曲をリリースしましたが、どちらも完全に英語楽曲でした)やBTSの『Butter』『Permission to Dance』がこれに当たります。

③外国人メンバーの登用
韓国の多くの事務所は日本、台湾、中国、タイ、アメリカなど、国外でも積極的にスカウトやオーディション活動を行い、メンバーに登用しています。これはより多くの国外の人々の関心を向けることに役立っています。

この最大の例の一つはBLACKPINKのリサでしょう。彼女はタイのブリーラム県で生まれ、14歳の時にYGエンターテインメントのオーディションに合格し韓国へ移住しました。現在Instagramで6,000万人以上のフォロワーを抱える彼女は韓国だけでなく、タイ及び東南アジアでも絶大的な人気を誇ります。

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俗に”現地化”と呼ばれるこうした戦略は、元は業種を問わず海外進出を目論む企業であればどこもある程度行っている試みでした。しかしながら、そうした場合の多くは製品やサービスをニーズに合わせてリデザインするという程度に留まったものでした。一方でK-POPアーティストとその事務所は、現地のメンバーを登用するという斬新な形でより海外のファンの注意を惹き、エンゲージメントを高めることに成功しました。

6.テレビ番組への積極的な出演

最も強力なK-POPマーケティング戦略の1つにテレビ番組への積極的な出演が挙げられます。これらは、K-POPアーティストにMVだけでは伝えられなかった多くの可視性を与え、グループ全体の宣伝に寄与します。

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BLACKPINKのリサによるこのカニダンス動画は、現時点で8000万回以上も再生されており、一部のMVの視聴回数さえ上回っています。

7.高品質の追求

これは正確にはマーケティング戦略ではありませんが、個人的にK-POPアーティストは量よりも質を重視している傾向にあると感じます。短期間で多くの楽曲やMVをリリースする代わりに、可能な限り最高の品質でリリースされています。

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舞台セット、小道具、衣装、ダンス、楽曲など、コンテンツに関連する全てがとてもよく計算され、制作され、配置されています。こうした高品質なコンテンツは、効果的なマーケティングの本質的な秘訣です。というのも、結局のところコンテンツがそもそも良くなければ、マーケティング戦略がどれほど優れていてもそれらが大衆的な支持を集めることは困難だからです。

8.企業志向

K-POPのマーケティング戦略の次のリストは企業志向です。K-POPアーティストはしばしば特定の企業に対する支持を表明したり、ブランドアンバサダーになったりすることで全く新しい一面を見せ、ファンを惹きつけます。

たとえば、MAMAMOOのファサは過去数年間にディオール、ラペルラ、ミュウミュウ、バルマン、フェンディ、ドルチェ&ガッバーナ、アレキサンダーワン、ボッテガ、ジバンシィ、ベネタ、バーバリーなど数多くの企業案件を受け、数多くのコラボレーションに参加しました。同時に彼女は、アディダス、シムズ4、ノースフェイスなどのブランド大使も務めています。

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こうした企業志向はK-POPアーティストだけでなく、その事務所とっても莫大な恩恵を与えます。多くの国ではアーティストの過度な企業志向は嫌われ、敬遠される傾向にあります。しかしK-POPアーティストは、その卓越したブランディングで拝金主義という主張を巧みに避けつつ、自身のブランドや事務所の利益を最大化します。

9. 言及されるコンテンツの意識

TikTokが人々の生活に入り込んで以来、人々はTikTokに最適なキャッチーな楽曲やダンスを常に探しています。これは、キャッチーでユニークなコンテンツほど、バイラルを引き起こせる可能性が高まることを意味します。こうしたマーケティング戦略は元を辿るとYouTube黎明期の伝説的コメディアンで現在は歌手として活動するJoji(YouTube活動時代の名前はFilthy Frank)が2013年に公開した『Harlem Shake』のミーム動画に端を欲し、厳密には現在でもDrakeやJason Deruloなど数多くの欧米のアーティストにも採用されています。ただし、これほどコミュニティ的に、界隈全体がそうしたコンテンツの制作を意識しているのはK-POP特有と言えるでしょう。

K-POPで成功したこのダンスムーブメントの1つは、ITZYのリュジンが『WANNABE』で披露したショルダーダンスです。TikTokを中心にハッシュタグ「#ShoulderDanceChallenge」が流行したこのムーブメントの元のMVは現在、3億回再生以上の記録を誇ります。

10.コミュニティの支援とファン志向

SNSが登場する前、K-POPアーティストとファンの交流は、基本的にファンカフェと呼ばれるデジタルファンクラブに縛られていました。ところがSNSが登場しそうした呪縛から解放された現在、K-POPアーティストとファンはSNSを通じてより濃密な関係を築くことに成功しています。

①専門用語の存在
K-POPにハマり最初に気付くのがマンネ、オッパ、ヒョン、セルカ、カムバ、ペンミ、○○lineといったファンの間で使われる専門用語の多さです。こうしたそのコミュニティ内でしか通じない言葉の存在は、コミュニティの一体感や帰属意識を高め、繁栄に寄与します。また、こうした韓国語をルーツに持つ用語の普及は、若者の国際意識を高め、韓国語の学習者増加をも促しています。

②ファン称
BTSなら「ARMY(アーミー)」、TWICEなら「ONCE(ワンス)」、IZ*ONEなら「WIZ*ONE(ウィズワン)」といった風に、K-POPアーティストにはほぼ必ずファン称と呼ばれるファンコミュニティを示す言葉があります。こうした言葉の存在はファンに一体感を与え、ファン・アンチ問わず言及されやすくする効果があります。

③ファンへの配慮
K-POPアーティストはとにかくファンを気遣い、上述したファン称を何かにつけて口に出します。例えばBTSは、2018年に香港で開催された音楽の祭典MAMAで行ったスピーチにて、メンバーのほぼ全員が「ARMY」を口にし、感謝を伝えました。こうしたファンに対する気遣いは、ファンとしてのモチベーション高め、一体感を強め、K-POPアーティストに対するロイヤリティをより強固なものに変えます。人間は自分の名前を呼んでくれた相手に親近感を覚えることは心理学では常識ですが、K-POPアーティストがファン称を頻繁に口にするのもこれに似た効果があると考えられています。

また、K-POPアーティストのファンはしばしば、ファン同士でコンサートDVD鑑賞会やお気に入りのメンバーの誕生日を祝いますが、そうした出来事にSNSで気付いたK-POPアーティストが、投稿にイイネし、コメントで感謝を伝えることは特にデビュー当初であれば珍しいことではありません。

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最後に

以上が今回紹介した「K-POPを躍進させた10のマーケティング戦略」のリストです。ただし、これらは私自身の見解や意見であり、必ずしも真実であるとは限らないことを忘れないで下さい。何か間違っている場合や感想は是非コメント欄へ。最後までお読み頂きありがとうございました。

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