TikTok がヒットソングの生産地になった理由

2021年3月14日、グラミー賞を受賞したMegan Thee Stallion(メーガン・ジー・スタリオン)は、涙を堪えながら20年ぶりに最優秀新人賞を受賞した女性ラッパーになったことを母やマネージャーに報告しました。一方で彼女は、自身の代表曲「Savage」を全米No.1ソングに導いた恐らく最大の存在であるモバイルアプリ「 TikTok 」については授賞式後のインタビューで特に言及しませんでした。

TikTokは音楽に合わせて短い動画を投稿するSNSで、今の時代における最大のヒットソングの生産地となっています。他の多くのTikTok発のヒットソングと同様、「Savage」は曲に合わせてダンスを踊り、それを見たユーザーが真似をし、その連鎖反応によって知名度を伸ばしました。この新しい成功の方程式は、TikTokをここ数年で最も重要なニューメディアに変え、地政学的論争のテーマにさえしています。

とは言っても、「Savage」の成功は偶然の産物ではありません。TikTokのマーケティング班がユーザーデータを分析し、スタリオンのレーベルに彼女のプロモーション方法を助言し、入念な企画の元誕生したものです。

SNSはユーザーが思っている以上に運営側によってトレンドや動向が操作されているものですが、TikTokは特に競合アプリよりもその傾向が強いと言われています。どの動画がバイラルになるか、どのクリップがパーソナライズされたおすすめページに表示されるか、どの楽曲がアプリからアプリ外へ飛び火して世界に広がるかは多くの場合、TikTokを運営する人々が決定しています。

TikTokの運営元であるByteDanceが中国の企業であることを知っていれば、このように動向を著しく管理した巨大なメディアがアメリカにおいて定着したのは一見不自然に思えます。そしてこの物語は、現在のTikTokの原型となったリップシンクアプリ「Musical.ly」を立ち上げたAlex Zhu氏に端を欲します。

Zhuは中国出身で、浙江大学で土木工学を学びました。その後、世界的なソフトウェア企業であるSAP SEに就職するために渡米。2014年にシリコンバレーへ列車で移動中、アメリカの若者がスマホで音楽を聴きながら動画を撮影している姿に興味を持った彼は、この2つを融合させたアプリを作ろうと思い立ちました。

テクノロジー企業が既存のエンターテインメント企業と衝突することは歴史の常ですが、Zhuは音楽業界を破壊するのではなく、音楽業界と一緒に仕事をすることを信念としていました。当時36歳だった彼は、ユーザー行動を徹底的に調査、中学生に扮した偽のアカウントを作成し、小中学生と交流し様々な意見交換をしたことさえありました。

その後TikTokの運営元で中国企業であるByteDanceが、2017年にMusical.lyを買収。その1年後、ByteDanceの最高経営責任者であるZhang Yimingは、このプラットフォームに高度な人工知能技術と約10億ドルのマーケティング予算を投資し、入念なプロモーションの末数億人のユーザーを引き寄せました。また、社員は何日もかけて世界中の様々なクリエイターに連絡を取り、このアプリに参加してくれるよう依頼し続けたと言います。加えて、ダウンロードを促進するためにクリエイター、ミュージシャン、広告主にも利益が出るようにアプリをリニューアル。その上、何千ものユーザーに個別のマネージャーを割り当て、技術サポートや大学の学費など、あらゆる面でサポートし、クリエイターの忠誠心を高めることにも成功しました。

フロリダ在住の19歳のクリエイターで、850万人のフォロワーを持ち、TikTokで月に約2万ドルを稼ぐGabby Murrayは、「トップユーザーは、露出度を高めるためにどのような動画を作ればよいかを説明したメールを毎週受け取る」と言います。こうした努力の結果、TikTokはアメリカにおいて、そして世界中でその影響力を確固たるものにしたのです。

このようなアプローチはTwitterやFacebookとは大きく異なっています。こうしたアメリカのテクノロジー企業は、自分たちをコンテンツプロバイダーではなくプラットフォームと見なし、ユーザーに特定のコンテンツについて投稿するよう強要することはないと、「Vine」の元クリエイター班統括Karyn Spencerは言います(とは言ってもこうした考え方も時代と共に多少変化しているように感じます。実際YouTubeやInstagramでは、コンテンツに対してクリエーターに報酬を支払うケースが増えていますが)。

スタリオンのレーベル「300 Entertainment」は、コロナ渦がはじまる直前に彼女の新作アルバム「Suga」のプロモーションのためにTikTokとマーケティングチームを結成しました。レーベルは当初、キャンペーンの中心を「Captain Hook」という曲に想定していました。しかし、TikTok側のメンバーが一度様々な指標をモニターするため、「Captain Hook」を含む複数の楽曲を同時にTikTokで公開するようレーベルに促しました。するとすぐに、ユーザーは「Savage」という別の曲に夢中になりました。その後、チームはCharli D’amelioやAddison Raeを含む多くのトップクリエイターに楽曲の使用を直々に依頼。その結果、ユーザーがこの曲の断片を使用する割合はまさに指数関数的に増加したとTikTokの音楽パートナーシップ担当Isabelle Anounceは述べています。

その後、TikTokは意図的にこの曲を何日かアプリ上で “沈静化 “させてから、重要なプレイリストや、ユーザーが動画用の音楽を選択する検索ページやサウンドライブラリの上部にあるバナー広告に配置。結果的に同楽曲は2020年を代表する楽曲に大きく成長しました。

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